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2016年3月12日

Erlang Factory SF Bay 2016にて発表致しました

米国サンフランシスコにて開催されたErlang Factory SF Bay 2016にて,力武健次技術士事務所 所長 力武健次が“Fault-Tolerant Sensor Nodes With Erlang/OTP And Arduino”と題して英語にて発表致しました.スライドはspeakerdeck.comにて公開しています.また、この発表で使用したソースコードやスライド原稿はGitHubのレポジトリにて公開しております。

なお、Erlang Factory SF Bay 2016 での発表の模様はYouTubeにて公開されております.

2014年4月24日

力武健次技術士事務所 開業のご案内

このたび2014年4月21日に,日本技術士会に技術士登録変更届出書を提出し,「力武健次技術士事務所」を個人事業として営む旨届け出ました.これに伴い,2014年4月24日に,豊能税務署と大阪府豊能府税事務所に,個人事業の開業届他関連書類を提出しました.この開業届の提出をもって,法的に正式に個人事業主としてのスタートを切りました.

開業といっても,やることは今までの技術者と研究者としての活動の延長であることには変わりありません.昨年2013年10月より6ヶ月強の間各種求職活動を行って来ましたが,諸事情勘案の結果,自分ができること,やりたいことをする上で,被雇用者ではない形を取るのが最善の道であろうという判断をしました.その上で,まずは個人としてスタートしようということで,自分の持つ技術士(情報工学部門)のライセンスを活かした形で始めることにしました.

もっとも,世間を賑わせている米国西海岸のスタートアップとは違い,開業に伴う華々しい話は一切ありません.当面の目標としては,まずは借金なしの経営をしつつ,社会に対して微力ながら自分の能力を役立てればと考えています.これは大変難しいことですが,始めた以上は覚悟をもって挑む所存です.

業務内容は情報工学全般,特に過去経験してきた情報セキュリティ,ネットワーク,Erlang/OTP,FreeBSD,モバイルの無線技術関連を主としつつ,これらにこだわることなく何でもやるつもりです.何かお役に立てること,お困りのことがありましたら,遠慮なくご相談ください.連絡の方法については以下のURLを参考にしていただければ幸いです.

力武健次技術士事務所のページ URL:http://rikitake.jp/ (2014年12月にURLを更新)

2014年3月17日

第一級陸上無線技術士試験受験記

(All image files in this blog article are edited by Kenji Rikitake)

この1月(平成26年1月期)に第一級陸上無線技術士(一陸技)の国家試験を受験した.その時の受験記を書いておく.幸い試験には合格し,すでに無線従事者免許証の交付も受けているが,この試験はおよそ簡単なものではなかったということだけは最初に強調しておきたい.

受験の理由

受験を決意したのは昨年2013年の10月だった.退職勧奨というやむを得ない事情で退職したこともあり,どうにかしてもっと手に職をつけなければという焦りの気持が理由の一つだったことは事実だ.そして,ただのインターネット屋だけでは食っていけなくなるだろうという予想は2008年ごろからしていて,その時からプロの無線(業務無線)の資格が欲しいとは思っていた.2009年に,さる勉強会で無線の話をしたこともあったからだ.

しかし,無線局の操作は無線従事者の資格がなければ行うことはできない以上,プロの資格なしでは商売にはできない.そして資格を取るなら自分の実力で可能な最強かつ最高の資格でなければならない.趣味の分野とはいえ,このことは第一級アマチュア無線技士(一アマ)を受験した時に実感したことである.一アマを取ってからは,誰も私に文句をつけてくることはなくなったからだ.

なぜ一陸技を選んだか

日本でのプロの無線の資格にはいくつかの選択肢がある.大きく分けると,「技術操作」と「通信操作」という選択肢がある.

「技術操作」とは,通信そのものを行うのではなく,通信に係る機器の調整などを行うことができるという意味である.平たくいえば,無線機やアンテナの設計や調整,通信操作以外の運用ができる資格である.技術操作の仕事はまさに技術者の仕事以外の何物でもない.(米国FCCのCommercial Radio Operatorの資格では, "Radio Maintenance and Repair" という表現をしているようだ.なお,私は米国で労働する権利をこの原稿の執筆時点では持たないため,この米国資格を得るための受験資格はない.)

一方,「通信操作」とは,音声などで相手とやり取りをする操作だが,プロの無線では基本的に操作者の意思で伝達内容が決まることはむしろまれであり,操作者は第三者からの依頼電文を正確に伝えることが要求される.その意味で通信操作は一種の特殊技能であり,純粋な技術者の仕事とは一線を画しているといえるだろう.

(日本ではプロの無線の資格でもアマチュア無線局の通信操作を行うことができるが,国際的にこのような制度が一般的なわけではない.たとえば米国ではプロの無線の資格とアマチュア無線の資格は厳格に分かれており,兼ねることはできない.)

通信操作を主にした資格の最高峰であるとされる第一級総合無線通信士(一総通)には,私が結局覚えることのできなかった和文モールス符号の送受信試験があり,まず受験は無理だろうと決めた.日本のプロならば他人の和文電報を扱えるだけの技量を必要とするのは当然であり,残念ながら私にその実力はない.アマチュア無線の必須技能である欧文普通話(=普通の英語の文章)のモールス符号ですら,まともに受信して記録することはおぼつかないのだから.

一方,技術操作を主にした資格の最高峰である一陸技は,放送局などを含むすべての無線局(ただしアマチュア無線局については第四級の操作範囲のみ)の技術操作が行える.一総通は第二級陸上無線技術士(二陸技)と同等とみなされるが,二陸技では2kWを越える放送局の送信所のような大電力の操作はできない.一陸技にはその制限がない.その意味で無線工学(=電子工学+無線システム+アンテナ工学)の業務試験としては,日本では最高の資格の一つであるということがいえる.また,一陸技は無線工学(3科目ある)と法規(電波法の基本的概念と技術関連項目)のみが必須科目であり,そういう意味では比較的勉強しやすい試験であるとも言える.

受験勉強の準備と目標

一陸技の受験勉強には,まずは過去問集,それから各科目の参考書を1冊ずつ用意した.もっとも,実際に手をつけられたのは,諸般の事情により試験日の一週間前からであった.参考書は以下の通りである.

この上記5冊の参考書の大半は同一人物が著者であり,そういう意味では内容に多少の偏りは否めない.もっとも,過去に電子工作の経験や知識があれば,ついていける内容が大半である.言い換えれば,そういう経験のない人が,ひたすら過去問を暗記して受けるというのは,無理かもしれない.マークシート式の試験とはいえ,実際にはかなりの筆算をしなければ正解は出てこないからだ.

現実の試験は4択のマークシート式試験で,2日にわたって行われる.無線工学3科目は各科目ごとに試験時間が2時間半,それぞれ5点の問題が20問,1点×5項目の問題が5問,計25問125点で採点され,75点(6割)を取らないと合格にならない.法規は試験時間が2時間,5点の問題が15問,1点×5項目の問題が5問,計20問100点で採点され,60点(6割)を取らないと合格しない.免許は4科目すべて合格しないと与えられないが,各科目の合格結果は試験のあった次の月から3年間有効であるため,複数回の受験で免許を取得する人も多い.私の場合は幸いにして4科目全部一度で合格することができた.

勉強の内容

無線工学は「無線工学の基礎」(電磁気学と電子工学,回路理論),「無線工学A」(無線機の構成や変調方式など無線システム全般),「無線工学B」(電磁方程式から伝送線路,電波伝搬を含むアンテナシステム全般)の3つに分かれる.これらの中で最も厳しかったのは,実は「無線工学の基礎」であった.

「無線工学の基礎」では,試験範囲はマックスウェル方程式や電磁誘導,コンデンサの原理といった大学の電磁気学で学ぶ基本的なことから,BJT/FETを使った増幅回路,さらにはデジタル回路の基本であるブール代数に関する問題まで,広範囲な問題に対応できることが必要になる.そのためには,四端子回路(特にhパラメータ/sパラメータ)や,デルタ-スター変換などの,比較的高度な技術が必要になってくる.指数対数(複素係数を含む)と三角関数の和差公式は普通に使えないといけない.

「無線工学A」では,無線機の基礎構成,AM/FM/SSB変調方式,ビット伝送の基本であるBPSKやQPSK,レーダ,電波航法(VOR/GPSなど),衛星通信システム,地上デジタル放送(私が受けた試験では過去問にないOFDMの帯域分割パラメータの詳細に関する問題が出た),電源,雑音指数,無線機の性能測定など,広い範囲の問題が出る.

「無線工学B」では,電波伝搬の視点から見たマックスウェル方程式,アンテナの電流分布や電波放射,空間の伝送損失などを定量的に計算するための伝達公式,八木=宇田アンテナから導波管を使ったスロットアンテナに至る各種周波数の各種アンテナ,分布定数回路と導波管,伝送線路のインピーダンスと整合,地表波から電離層伝搬までの電波伝搬全般,そしてアンテナ系の測定まで,これまた広い範囲の問題が出る.

これらの無線工学3科目に関する問題を解けるようになるには,実際に各種技術がどんな場面でどのように使われているかを想像し,その上で必要な計算を行っていくという幅広い知識が必要になる.

また,「法規」では,電波法の基本原則から無線設備規則に定められた各種技術基準,無線局の運用,無線従事者の義務,そして罰則まで,広範囲な知識が要求される.こちらは自然法則ではなく人間の決めた規則であり,無線工学の科目に比べて丸暗記のセンスが要求される科目でもある.

勉強の方法

学問に王道はないとはよく言ったものだが,この試験はなにしろ範囲が広すぎるため,率直に言って過去問を解きながら背景の考え方を覚えていくしかない.結局自分ができたことは,1日1科目ごとに過去問と参考書を総ナメすることを4日間続け,残り2日で4科目を再学習することだけであった.もちろんその合間に多くの関連書で内容を確認し,一部の問題では手計算を行うということもしたが,ひたすら丸暗記するとかそういったことはしなかった.

関連書として便利だった書籍を紹介しておく.

試験当日

試験会場は大阪市内の扇町近くにある関西テレビ電気専門学校であった.この会場は周辺に食事を摂れる場所がないのと,建物が古く和式トイレしかないため,長時間の滞在には苦痛を伴う.2002年12月に一アマの試験を受けたときは,当時はまだ毎分60字の欧文モールス符号を2分間筆記受信するという電気通信術の科目もあって,かなり身体的には堪えた.今回の試験は電気通信術の科目はないものの,2日間午前午後フルに戦わなければならなかったため,体調の管理には万全を期した.

試験は科目ごとに途中退場することができるが,実際にかかった時間は次の通りであった.

  • 1日目午前: 無線工学の基礎: 150分全部
  • 1日目午後: 法規: 60分
  • 2日目午前: 無線工学A: 90分
  • 2日目午後: 無線工学B: 120分

それだけ「無線工学の基礎」は厳しい科目だったといえる.実際の成績は次の通りであった.(この結果については,自己採点と日本無線協会に試験結果発表後請求した成績通知書との内容は一致している.)

  • 無線工学の基礎: 85/125
  • 法規: 81/100
  • 無線工学A: 109/125
  • 無線工学B: 96/125

無線工学の3科目については,時間のかかった科目ほど成績が悪くなっているというのが印象的である.つまり,理解が浅い科目ほど,時間ばかりかかってしまっている.

試験結果の発表

試験結果の発表は2月13日に日本無線協会のWebサーバ上で速報され,その翌日には結果通知書が届き,無事合格であることを確認した.すぐに近畿総合通信局に免許申請を行い,3月10日付で無線従事者免許証が交付された.

受験後の所感

一陸技を持っていたからといって今すぐに何かできるわけではない.プロの無線の中でも特に需要の多い携帯電話の基地局に関する業務は,下位資格の第一級陸上特殊無線技士(一陸特)で済んでしまうことが多い.(一陸技は一陸特の操作範囲をすべて含む.)それに,資格があったからといって,実務経験がなければ就職がすぐにできるわけでもない.

それでも,一陸技と一アマという2つの資格を持ったことで,事実上日本でのすべての無線局の技術操作をしてもよいことになったというのは,電子工学や無線技術の習得と普及をライフワークの一つとしてきた者としては嬉しい以外の何物でもない.

最近はInternet of Things (IoT)といって,何でもインターネットにつなげようという動きとそのための技術開発が盛んだ.無線技術はIoTの根幹技術の一部を成しており,これからますます重要になってくるだろう.IoTのほとんどは個別免許不要の無線機器(無線LAN, BlueTooth, 3G/LTE/WiMAXなど)の使用を前提としているが,これらの機器の通信到達範囲は限られており,本格的な問題解決には免許の必要な無線局を使わなければならなくなることは間違いない.その時に,一陸技の資格を役に立てることができるだろうと個人的には考えている.

自分が今求職中という厳しい身分であることは十分承知の上だが,それでも新しいことに挑戦していくことは重要かつ今後の人生を切り開く上で不可欠であると実感できたのが,この受験による最大の収穫といえるだろう.

2012年12月28日

今時のアマチュア無線 (2): 共同住宅とアンテナ

(写真: by Abraxas3d at flickr: http://www.flickr.com/photos/w5nyv/2564821385/)

今回も前回に引き続き「今時のアマチュア無線」について書く.

前回の記事について,「ノイズになってるのはお前の無線局の方だろ」という厳しいご指摘をいただいた.まあ電波を出す活動であるので,扱いを間違えればすぐに雑音源になってしまうのは致し方ない.しかし,私の場合は取るべき対策は最大限取るようにしている.電波を出す上でのたしなみみたいなものである.そこで「フェライトコア」という部品が活躍するのだが,この話は長くなるので,別の機会に書く.

とにかくアマチュア無線家のアンテナというのは異様である.地面からタワー(鉄塔)を立て,その上に時には幅数十メートルになる魚の骨のような八木・宇田アンテナを載せて喜んでいるのだから始末に負えない.日本の場合は私有地の中では建築基準法などに則る限り文句を周囲には言わせないという風潮があるようだが(とはいえ最近は東京都目黒区で50mを超えるタワーを建てようとして地域住民の反対運動が起きたため行政がルールを作ったという誠に残念な事例もあるらしい),北米や欧州,豪州やニュージーランドでは,そもそも市街地に鉄塔など景観を害するものを建てるのはまかりならないという地域の規制があるから,アンテナを上げるのも容易ではない.ちなみに私は共同住宅にしか住んだことがないので,とてもこんなタワーを上げるゼイタクはできないし,やる気もない.

(写真は自宅の短波用アンテナ(伸長時).2012年12月に撮影.プライバシー保護のため加工してある.)

幸か不幸か,今の自宅の環境はマンション最上階の角部屋で,かつベランダの鉛直方向上方が空いているという,共同住宅では大変恵まれた(?)状況である.2002年に無線を再開するにあたり,この環境を最大限に活用することにした.とはいえ,常設の金属パイプを使ったアンテナなどは望むべくもない.普段から風速毎秒10m以上,台風通過の際は毎秒30mぐらいまでは日常的に覚悟しておかなければならない環境であることを考えると,使えるのはあくまで仮設のアンテナであり,必要のないときは縮めておかなければならない.

とはいえ,短波,それも10.1MHzや14MHzといった海外交信に適したバンドでの通信を楽しむためには,最低でもダイポールあるいはバーチカルアンテナの片側には5m,できれば10mの長さを確保する必要があるため,アンテナには耐候性のある被覆電線を使い,それを絶縁体のグラスファイバーの竿(釣竿)で上に上げるようにしている.2012年12月現在は最大伸長時約7.2m長の竿を使っている.鉛直方向上に伸ばしておけば,仮に継ぎ目が緩んでも,重力が作用し落下するだけであり,かつ竿の各部分は電線で固定されているためバラバラにはならない,という仕組みである.このアンテナはバーチカルアンテナの一形態であり,電波の輻射を目的としないもう一方の側には,長さ4~7mの電線を数本接続してベランダの床の上に転がしてある.(安全のため,運用時はベランダは立入禁止である.)このような運用形態はマンションの多い都会では一般的である.なお,写真で近くに写っている別のアンテナは,120MHz近辺の航空無線を受信するためのものである(実際にはこれで中波放送も受信していたりするが,これもまた別の機会に書く).

こんなアンテナでも,100Wで給電してやれば,なんとか世界の大部分の地域と交信できるぐらいの実力はある.ベランダは南東方向に開けているため,特に太平洋各地との交信実績は多い.ただ,最上階で角部屋という電波障害を起こしにくい環境であること,そしてマンション自身が高台にあるということは,幸運であったと言わざるを得ないだろう.必要のない時は縮めておけるのも,日常生活との両立という上では大事である.

2012年12月10日

今時のアマチュア無線 (1): ノイズの恐怖

(写真: by bairlyfitz at flickr: http://www.flickr.com/photos/barelyfitz/2898020303/)

このblogの記事更新も滞ってしまった。精神的にかなり疲労していたのが直接の原因である。幸い、少しずつ快復してはいるため、文章書きのリハビリを兼ねてまた書いてみたい。なにしろ「混沌」としたblogなので、Erlang/OTPの話からは離れることもあるが、その点はご容赦を。

本来コンピュータ屋であるはずの私だが、実は1975年からアマチュア無線を生涯の趣味にしている。無線局免許を取ったのは1976年。いくつかの紆余曲折を経て、2002年からは短波(HF)のモールス符号による電信(CW)がほとんどで運用している。24WPM(20bps)の低速で、かつ電離層の状況次第で通信できるかどうかが決まるという、およそレトロな代物だが、それでも電線数本のアンテナに100Wの出力で、世界各地にあいさつを交わせるのが楽しくて今でもやっている。

ところで、電子情報通信学会通信ソサイエティマガジンNo. 23にて「今時のアマチュア無線」という小特集が組まれた。さすがに公の学術学会の文章であり、あまり極端な内容の記事は載っていない。無線機の技術に関する記事が入っていたのはさすがである。しかしアマチュア無線全般の解説としてはちょっと内容に不足を感ぜざるを得ない。

というわけで、「今時のアマチュア無線」について、私見を何回かに分けて書く。

今時の電源はノイズの山

今時の文明社会で無線を楽しむ、あるいは微弱な遠距離からの電波を快適な環境で聞く上で、最大の問題となるのは、電磁雑音(ノイズ)である。今や、このノイズがあまりにも多いため、遠距離交信を行うには、特に都会では大変な苦痛が伴うということは過小評価してはならないと思う。

電子機器の多くはスイッチング電源を採用している。これは電気供給源からのエネルギーを一定時間で区切って供給することで、電圧制御を行い、相手に合わせた電圧に調整するという技術である。いわばスイッチが間断なく入ったり切れたりしているわけで、スイッチの切替の時は、一瞬ではあるが非常に大きな電流が流れ、ノイズとなって周囲の環境に影響を与える。これはコンピュータを構成する論理回路のCMOSロジックでも同様である。オーディオの「デジタルアンプ」も同様に動作する。これらは、平たくいえば電波を出しまくるため無線の環境には都合が悪い。

しかし、基本的には電圧と電流の積が一定になるように変換を行うため、効率は良い。また、スイッチング周波数を高くできるため、商用交流電源から電圧を変換するためのトランスも小さくできる。だから今のデジタル機器の電源はほぼ100%スイッチング電源になった。照明やエアコンのインバータ回路も、同じ原理で動作している。実はアマチュア無線機でさえ、電力利用効率化の側面から、スイッチング電源を使うのが当たり前になっている。

一方、スイッチング電源が普及する前は、トランジスタなどの電流制御素子を負荷に直列(シリーズ)に接続し、入出力の電圧差を察知して出力電圧を一定に保つように制御素子を動かすシリーズ電源が一般的であった。今でも三端子レギュレータなど小規模な電源ではこの方式が取られている。制御にあたってスイッチングを行わないため、ノイズは少ない。しかしこの方式の欠点は、入出力の電圧差を常に電流制御素子で吸収しなければならず、電流が増えると発熱も増えてしまうということだ。また、あらかじめ直流に近い電源を商用交流から作るためのトランスも大がかりになって重くなる。今のパソコンの電源をシリーズ電源で作ったとしたら、おそらくトランスだけで10kgは軽く超えてしまうだろう。熱の発生を考えれば、省エネの面から見ても分が悪い。非常にノイズの少ない環境を要求される分野への応用ならともかく、そうでない一般の民生機器にとっては、シリーズ電源はもはや性能が悪い旧式の電源にしか見えないだろう。

そんなわけで、世界は今やノイズの腐海である。家の中で中波放送(AMラジオ)を聞こうとしてみるとそのことがよくわかる。まず天井の蛍光灯のインバータが悪さをする。そして省エネの旗手であるLED電球や電球型蛍光灯にはそれぞれインバータが組み込まれている。夏場になればエアコンがフル稼動してそこら中に電波を撒き散らす。PCのディスプレイもノイズの山である。まあ、ブラウン管/CRTに比べれば、ノイズは減ったが。電磁調理器も、周波数は違うが、大きなノイズを空間に出しているはずである(ただし磁界が強烈なので、くれぐれもラジオを近づけたりしないように。たぶん壊れる。)

そしてタブレットやスマートフォン、携帯電話に至っては、それら自身が無線機器であるため、電波を出さないわけにはいかない。もちろん周波数はラジオ放送やアマチュア無線の周波数とは違うが、影響が全然ない、というわけにはいかないのが現実である。小型に作るため、干渉を避けるための遮蔽(シールド)も不十分である。当然ノイズに対する行政の規制はあり、これらを満たすためにフェライトコアというノイズ吸収のための部品が電源線や接続ケーブルに入っていたりするが、屋内でラジオを受信できるような環境を保証してはいない。まともにラジオを聞きたければ、中波(AM)でもFMでも、屋外、それも建物の外にアンテナを出すことが必須になってしまった(ケーブルテレビ放送の多くは、FM放送の電波も周波数変換して中継しているが)。

こんなノイズだらけの中で無線通信をするためにはどうすれば良いのか。いくつか方法を列挙してみる。アルゴリズムを使ってS/N比を上げる方法は、話が長くなりすぎるため、あえて除いてある。

  • 通信に使う電力を増やして電波を強くし、十分なS/N比を取り、ノイズに影響されないようにする。
  • 指向性アンテナを使い、実質的に通信に使う電力を増やしたのと同じ効果を得る。
  • ノイズ発生源を減らす。
  • 配線からノイズ源を出さないように、フィルタを入れたり、シールドを強化する。
  • ノイズを受信しないように、通信の使用帯域を狭める。(その代わり速度も遅くなる。)
  • ノイズを受信しないようにノイズ源からアンテナを遠ざける。

アマチュア無線の場合、何が問題になるかといえば、受信する相手の電波の強さが保証されないことになる。いや、保証されないだけでなく、できるだけ弱い電波を拾って受信できるようにしないと趣味の上でカッコ良くない、という価値観で成り立っている、といったほうがいいだろう。その意味では電波天文学に似ている。そうなると、ノイズを避ける方法には、敏感にならざるを得ない。短波の電信で通信しているというのは、ノイズを避けるためでもある。モールス符号による無線電信は、すでに100年以上が経過している古色蒼然とした通信方式ではあるが、人間が手で送信し耳で解読する身体性を維持するという条件下では、未だに最も遠距離の通信を可能にできる方法だと私は思う。コンピュータによる同期を前提とした場合はさらに条件を良くできる可能性はもちろんあるのだが。

というわけで、今時のアマチュア無線では、とにかくノイズとの戦いに明け暮れなければならないのである。これはアマチュア無線に限った話ではなく、スーパーコンピュータや超高速ネットワークを作る時も基本的原理としては同じなのだが。