2011年3月29日

IT技術者は英語で何をすればいいのか

(新卒準備カレンダー2011春  http://atnd.org/events/13324  向けのエントリーです.)

英語の話は,客観的には書けない.自分の意思と関係なく9歳から10歳まで渡米していたこともあって,1日の最低でも1割ぐらいの時間は,英語で考えている.でも,こんな人間は,日本の日本語社会の中ではマイノリティそのものらしい.自分が新卒だったころ,つまり20年前の1990年ごろにはそのことに憤ったり,悲しんでいたりしたけど,もう今は怒ったり悲しんだりしてどうにかなるものではないことはよくわかった.それに,自分にとってのフランス語や韓国語でのコミュニケーションの難しさから,話は想像がつくようになったからだ.人生の早い時期に英語を学習できなかった人達にとっては,英語は大変な苦痛を伴うものらしい.その怨念や恨みつらみが,英語およびその他の外国語話者に日本では向けられることは,よくわかった.でも,そんな非生産的なことをこれ以上ここで書いても仕方がないので,やめておく.

ただ,ここで書いておかなければならないこととして,英語は少なくともずっとITの世界では共通言語であり続けたし,今後変わっていく可能性はあるとはいえ,そうでなくなる可能性はないだろうということは確実にいえると思う.細かい考え方は,2001年に書いた駄文で示したことと何も変わってはいない.9-11後米国の力は弱くなったとはいえ,ITのトレンドはすべて米国から出ているし,彼等の先行者特権はいささかも揺らいでいないからだ.米国ドルが国際通貨であり続けているように,英語は今後も力を持ち続けるだろう.日本の国情を考えれば,日本人が英語嫌いでいられる余裕なんか,本来はこれっぽっちもないはずなのだ

では,英語を母語としない私達は,何をすればいいのか.
一言でいえば,英語を使って仕事をできるようにする,ということだろうと思う.仕事の相手に日本語が通じるとはいえない状況が今後は一般的になり得るからだ.もちろん,カジュアルな英会話ができないよりはできたほうがいいが,それよりもまずは仕事,である.

最低限必要なことは,歴史的に日本の先達がやってきたように,英語を通じて業務知識を学ぶ習慣をつけることだと思う.実際にさわっているアプリケーションやプログラミング言語のほとんどは,英語環境を前提として動作させるのが一番トラブルが少ないのは,IT業界で働いてみるとすぐわかるはずだ.LinuxやFreeBSDならば,localeなし(環境変数LANGが未定義)の状態でshellを走らせてみるといい.日本語は出てこなくなる.Windowsのアプリケーションなら,設定言語を英語あるいはEnglishにしてみよう.その時点で表示される内容が,実は世界共通の議論をするための土台だったりする.一般に,英語以外の言語に対応させるための仕組みは,OSにとっては拡張機能に属するものであり,基本機能ではないからだ.

次にできることは,英語で書かれたWebページやメーリングリストの内容を読み込んでみることだと思う.別に読むだけなら怖がることはないし,最近は書いている人達の大多数が英語を母語としない人達だったりする.これは言わば試合参加者の大半がホームグラウンドでない場所でバトルロワイヤルを繰り広げている状態で,その分英語そのものは俗語を使うことが少なくなって,より誰でも分かりやすいものになっている.
個人的には21世紀になってからこの傾向はどんどん加速しているような気がする.具体的にいえば,開発者の属する地域が,英語圏(米国/英国/カナダ/オーストラリア/ニュージーランド)中心だった時代から,北欧/西欧に広がり,そして東欧やCJK(中国(台湾を含む)/日本/韓国),ロシア,南米,その他の国々や地域に広がってきているからだと思っている.
Erlangに関していえば,http://www.erlang.org/faq.htmlに載っているメーリングリストがまさにこの状況といえるだろう.

そして最後は,英語で作業をしてみることに挑戦するのが,いいのではないか,と思う.仕事でこういう機会がなくても,今ならばお手本となるオープンソースのプロジェクトが,たくさんある.GitHubでおもしろそうなプロジェクトを探して,git commitした時のコメントをソースコードと比べながら読み込んでみるのもいいかもしれない.
各プロジェクトのドキュメントをメモを取りながら読むのも良いし.英語から日本語への翻訳をしてみることを通じて練習を積むのも良い方法だろう.こうすることで,徐々に日本語に翻訳されたものに頼らなくても仕事ができるようになっていくと思う.

ひとつこぼれ話を書いておくと,Erlang/OTPのソースコードやドキュメントを読んでいると,およそ英語ではあり得ない表現がいっぱい出てきて,解読に時間がかかることがある.これは,おそらくドキュメントを書いている人達が,英語の母語話者ではないことが原因だろう.彼等の多くは(想像にすぎないが)スウェーデンやフィンランドなどの言葉が母語で,それらの言語の表現が英語にそのまま置き換えられただけであろうと思われる表現が,多く残っているように思う.これは,英語では他の欧州の言葉と時制や助動詞の使い方が著しく異っていることが理由の1つだと思う.だからそういう分かりにくさには早めに慣れておいたほうがいいかもしれない.命令や指示に関する助動詞の使い方に関しては,RFC2119が参考になる.